マリメッコを着ることは、その精神を身にまとうこと
フィンランドを代表するテキスタイルブランド、マリメッコの創業者は、アルミ・ラティア(1912~1979年)という女性だ。
彼女の人生とマリメッコの創業ストーリーを描いた映画「ファブリックの女王」(ARMI ELÄÄ)について書こうと思う。アルミ・ラティアがフィンランドでマリメッコを立ち上げたのは、戦後間もなく、1951年のことだった。
注)本作は、現在はAmazonなどで見ることができます
「女性の地位がおそろしく低い時代」に立ち上げたマリメッコ
映画の冒頭で、「アルミは、女性の地位がおそろしく低い時代に生きて・・・」と説明が入る。たしかに映画の中で、彼女はたびたび、男たちと戦っていた。不安や孤独や絶望を味わいながら、「金のことばかりでハートのない男たち」と闘い、美を追求し、会社を守り、さらに成長させたのだ。
フィンランドの場合、現代では大幅に女性の地位が向上しているが、それに比べて日本は何10年も遅れている。だから、映画の中でたびたび吐露される彼女の辛さは、今の日本に生きる自分にとってすごく感じ入るものがあった。
アルミ・ラティアは大胆で勇気があり、自信に満ちて天才的・・・と見える一方で、映画で描かれた彼女は臆病な顔もたびたび見せる。大事なスピーチの前に緊張しすぎてお酒をがぶ飲みしたり、パーティが苦手で行きたくないとぐずったりしていた。パーティに来てる「澄まし顔のくねくねした女たち」が大嫌いだと言って噛みついたり、「人生は辛いことの連続だ」と漏らし泣いたり。そういう一面もある人だった。
彼女はただ「強くてすごい女性」じゃない。多面的で、複雑なのだ。しかし様々な表情を見せながらも、彼女には揺るがないビジョンがあり、哲学があり思想があった。
マリメッコ・ガールとは。理知的で、自由で、国際的であること
この映画は、「言葉」もとても印象的だ。力強い宣言のような、それでいて詩のような。美しい言葉に満ちていた。(字幕は川喜多綾子さん)
一言一句記憶しているわけではないのだけれど、ぐっときたものをメモしておこう。胸に刻みたくなる言葉とはまさにこのことだよ。(>※まとめサイトとかの人へ、こういうの適当にコピペしたりしないでね、自分で映画見てね)
"マリメッコは、ライフスタイルを売るの。”
”マリメッコとは。マリメッコ・ガールとは。理知的で、自由で、国際的であること。”
"私にはハートがある。アートは経営じゃない。機械人間なんかに会社を渡さない。”
"マリメッコの株式を上場させるの。つまり国民に価値を共有する。でも決めるのは私。”
"男は信用しちゃいけないってことは、とうに分かってる。”
"あなたたちも働いたら?楽しいわよ。”
"遊びと仕事が一体化した場所を作る!”
"美しさの次には、何もない。その次も、何もなくて、あとは、美しさ以外のものがあるだけ。”
フィンランドの女性たちに共通する「力強さ」
ムーミン生みの親のトーベ・ヤンソンにしろ、マリメッコのアルミ・ラティアにしろ、私はフィンランドの女性が好きだ。このような歴史的著名人のみならず、現代の私が仕事や旅行でフィンランドの女性と交流すると、彼女たちに共通する「骨太感」がある。
力強く、賢く、大胆で、好奇心旺盛で、行動的で、凜としている。現代のフィンランド女性からはそういう印象を受ける。一つには、歴史や厳しい気候などが影響しているのかもしれない。アルミも映画の中でこんな主旨のことを言っていた。
「フィンランドの厳しい気候。貧しさという困難な環境。その中でこそ育まれたものがある。私は困難な環境じゃないとダメ。だからフィンランドが好き」
厳しい環境の中で育まれたもの・・・。あれ・・・これって、もしかして・・・「SISU(シス)」ってことじゃないか。うん。いかにも「シスがある!」
注)「シス」については詳しくはこちらをどうぞ
少し脱線するが、そういえばフィンランドでは、日本でいう「男子受けを意識」したファッションや雰囲気の人、見たことがない。それって単に文化の違いだけでなく、男女ともに働くのが当たり前だから、そもそも「男の人にこびて守ってもらわなきゃ」という発想が必要ないためだろうか。日本では、「女の子は頭がちょっと馬鹿なくらいがいい」なんてことを平気でいってしまう”おじさん”がいるけれど。そして私も特に20代全般を通して、男の人の前で、生意気だと思われないように、敵意を抱かれないように、自分を偽ったことがある。日本社会でうまく生きて行くにはそうせざるを得ないと思ったのだ。しかしそういう場面を繰り返していると、自尊心というのはずぶずぶ下がっていくものだから、絶対に良くない。本当は、そんなことしなくて良い場所で生きていくべきなんだ。
話を戻そう。
マリメッコは今や日本でとてもよく知られるブランドになった。ユニクロとコラボしたりもしているし、フィンランドに行ったことがない人、フィンランドには別に興味がない人もマリメッコなら知っているという人も多いだろう。
東京で生活していると、駅のエスカレーターで自分の前に立っている女の人がマリメッコのロゴ入りリュックを背負っていたことが、何度となくある。電車の中で、向かいに座っている女性の膝の上にウニッコ柄のトートバックが・・・なんてことも、よくある。だけどその創業者、アルミ・ラティアの物語まで思いを馳せる人は、少数だろう。
もっとこの映画が知られたら良いなと思う。
私も頑張って働いて、時々、ご褒美にマリメッコを着よう。(いつもは着れない、高いから。笑)
マリメッコを着ることは、マリメッコという精神、アルミ・ラティアの精神を身にまとうことだと思うんだ。
アルミ・ラティアがそうだったように、生きていれば泣きたくなる夜もあるし、パーティに行きたくない日なんてしょっちゅうある。けれど、マリメッコという「服」を通して彼女の精神にほんのちょっと力をもらい、胸を張って生きていたいな、と思う。